2013年7月4日木曜日

コラム 村田×柴田 独断プレビュー


 ロンドン五輪金メダリストの村田諒太(三迫)が8月25日、有明コロシアムで東洋太平洋ミドル級&日本S・ウェルター級王者の柴田明雄(ワタナベ)を迎えてプロデビュー戦に臨む。試合の予想はおおむね「村田の圧倒的有利」と出るだろう。確かに卓越したスキルと体力を誇る金メダリストにつけ入るスキはなさそうだ。ではプロの現2冠王者にまったくチャンスはないのだろうか? 柴田のボクシングを分析しながら勝機を探ってみたい。

 柴田の武器はなんといってもフットワークである。私が初めて彼の試合を目にしたのは6回戦のころだ。「ほぉ~、こんな選手がいるのか」というのが第一印象だった。183センチの長身でありながら、リングを大きく使い、フェイントを駆使しながら右に、左に、実に軽快に動くのだ。リズミカルなフットワークからタイミングのいい右ストレートを打ち込んでポイントを重ね、気がついたらKO勝ちを収めていた。
 
5月、柴田は淵上に勝利してミドル級タイトルを獲得

 柴田のフットワークの原点はバスケットボールだ。横浜市立汲沢中学校時代にバスケ部に所属し、レギュラー選手として全国大会3位に入った。周りの選手が小学生からバスケに親しんでいたのに対し、柴田は中学でバスケ部に入った初心者。得点を決める派手なプレイでは経験者にかなわないため、ディフェンスとリバウンドに活路を見出した。相手チームのエース選手にハブのように食らいつき、シュートのこぼれ球を追いかけ、確保するといういわば縁の下の力持ちだ。

 ディフェンスの良し悪しは、足をどれだけ動かすかで決まる。主体的に動くオフェンス対し、ディフェンスは受け身だ。だから先読みして動くケースを含め、ディフェンスはオフェンスよりもたくさん足を動かさなければならない。ポジション争いが勝負を決めるリバウンドも、フェイントや細かい足の動きが不可欠。柴田の足はバスケで磨き上げられたのである。
 
両者ともに180センチを超える長身。3日の記者会見から

 ロンドン五輪のパフォーマンスを見ても分かるように、村田のプレッシャーは半端ではない。逃げ切るのは至難の業だ。しかし柴田が勝利を目指すなら、最大の武器である足をフルに使って戦うしかないだろう。パワフルで追い込み方のうまい村田といえども、エンジン全開で動き回る柴田を、そんなにやすやすと捕まえることができるだろうか?

 6回戦という短期決戦は柴田にとって好材料だ。バスケで培ったスピーディーなフットワークはやや動きが大きすぎ、体力を消耗しやすいことから、柴田は後半に失速しがち。これが6回戦なら精神的にも楽で、スタートからガンガン飛ばしていけるだろう。

 観衆から「逃げ回ってんじゃねーぞ!」と罵声を浴びながら、柴田がリングの中をこれでもかと動く。単発ながら軽打を「チョン」という具合にヒットさせる。会場の、そしてテレビの前の何百万人というファンが金メダリストのド派手なKO勝ちを望んでいるのだ。じれったい試合になれば、村田とて焦りと無縁ではいられないだろう。そしてどちらも決定打が出ないまま、響き渡る試合終了のゴング。会場はどよめき、手に汗を握る中、リングアナがジャッジペーパーを読み上げる─。

 なかなかハードルの高いシナリオではあるが、村田にとって柴田戦は決してイージーファイトではないと思う。五輪金メダリストの優位は動かないにしても…。(渋谷淳)

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